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物言わぬウサギの謎 ~絵本『もりのなか』からみるファンタジーの案内役~

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『もりのなか』への招待

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東京子ども図書館が推薦する児童書に『もりのなか』という絵本があります。

 

『もりのなか』とは、マリー・ホール・エッツ(Marie Hall Ets 1895-1984)の手によりアメリカで1944年に"In the Forest"として出版され、1963年にはまさきるりこ(間崎ルリ子 19370-)により翻訳され、福音館書店から出版された絵本です。

 

特徴的なのが、絵が白黒で描かれているという点で、本文中には「茶色のクマ」など色を表す表現が頻出するにもかかわらず、絵が白黒であるため、子どもたちはそれぞれが動物たちの色を想像して楽しむことができます。絵本としての分量はそれほど長くなく、読み聞かせは2歳ごろから、一人読みは小学校低学年ごろからと、幅広い年齢層から愛される絵本です。

 

紙の帽子とラッパを持った男の子が、森に出かけ、そこで出会う様々な動物たちとともに食事をしたり、「はんかちおとし」や「かくれんぼう」をしたりして遊び、その後父親に連れられて家に帰っていくというストーリーです。

 

かくれんぼうの途中、男の子が「もういいかい!」と目を上げると、動物たちは一匹残らずいなくなっていて、その代わりにスーツ姿のお父さんが立っています。お父さんは、「もう おそいよ。うちへ かえらなくっちゃ」「きっと、またこんどまで まっててくれるよ」と男の子に声を掛け、肩車をして家に帰るのです。

 

こうしたことから、動物たちは、森の中における男の子の空想の遊び相手だったと考えられ、また、お父さんはその空想から男の子を現実に連れ戻す役割を果たしています。しかし、無理矢理に引き離すのではなく、男の子の空想の世界を「またこんどまで」と肯定しつつ、日常に帰っていくのです。

 

このように、『もりのなか』は「ファンタジーの典型ともいわれている作品」(松居直, 1973)であり、長年世界中の子どもたちから親しまれてきました。

 

ウサギの謎

さて、物語の序盤で、男の子は、出会った動物たちと行列になって森の中を進んでいきます。

 ぼくは、らっぱを ふきました。らいおんは ほえました。ぞうは、はなを ならし、おおきな くまは、うなりました。かんがるーは、たいこを たたき、こうのとりは、くちばしをならしました。

 

 さるは、おおきな こえで さけびながら、てを たたきました。けれども うさぎは、なんにも いわないで ぼくの さんぽに ついてきました。

 男の子(ぼく)のラッパを筆頭に、ライオンが吠えたり、クマがうなったりと騒がしいパレードですが、ウサギだけはただ静かについてきます。

 

調べたところ、ウサギに声帯がないため厳密に鳴くことはないようですが、鼻を鳴らしたり歯ぎしりをしたりすることはあるようです。また、ウサギですから、跳びはねることは得意でしょう。

 

そのため、サルに続いて、「うさぎは、はなを ならしながら、ぼくの まわりを とびはねました」というような一節が続いていくほうが、それまでの流れからして自然であるように感じます。

 

また、他の動物たちとは異なり、ウサギは、行列の後に行われたかくれんぼうなどの遊びに参加しません。

 

そうした違和感から、物言わぬウサギには特別な意味があるのではないか、と考えられます。作者エッツが、意図的に何かをウサギとしてシンボライズさせて描いたのではないでしょうか。

 

ウサギの正体

まず、ウサギは、他の動物(ライオン・ゾウ・クマ・カンガルー・コウノトリ・サル)と比べて比較的小さいことがわかります。

 

そして、なによりも大きな違いは、その生息地域にあります。

 

言うまでもなく、野生のライオンやゾウ、カンガルー、コウノトリアメリカの森には生息していません。また、必ずしも住んでいないとは断言できないものの、クマやサルも小さな男の子が入っていけるような森に棲んでいるとは、考えにくいでしょう。

 

つまり、ウサギは

  • 小さい(男の子自身と比べて背丈が近い)
  • (他の動物と比べると)よく見かける

という特徴があり、男の子に取って身近な動物なのです。

 

また、ウサギはチョッキを着ているクマなどと違い、2足歩行であることを除けば、いつも通りの姿です。

 

こうした特異な点と、行列や遊びに参加しなかったことを合わせて考えると、次のようなことが導き出されるでしょう。

ウサギは、男の子が想像した動物ではなく、実際に森の中で出会った唯一の動物である。

実は、ウサギだけは実際に男の子のそばにいたのではないかと考えられるのです。

 

ウサギは男の子の空想の源

こうして考えると、物語の背景として、男の子が思い描いた空想は1匹のウサギから始まったと考えることができます。

 

つまり、男の子の空想は次のように生まれたのです。

 

ある日、男の子は森に入って、ウサギと出会います。男の子はウサギに気付かずどんどん歩いていきますが、それでもウサギはずっと男の子についていきます。きっと、食べ物の匂いか何かがウサギを惹きつけていたのでしょう。そして、ついてくるウサギに気付いた男の子は、「もしも、ウサギだけじゃなくて、ライオンやゾウもついてきていたら、楽しいだろうな……」と、空想を始めます。

 

そして、空想がかくれんぼうをする場面まで達したときには、もうすっかり時間が経っていて、ウサギは男の子に飽きてどこかへ行ってしまったのでしょう。ちょうどそのころ、お父さんは男の子が心配になり、森の中へ探しに来ます。そして、優しく息子を空想の世界から現実の世界に連れ戻してくれるのです。

 

ウサギだけが実際にいたからこそ、男の子は、ありのままのウサギを空想にそのまま取り込んだのだと思われます。それにより、行列では沈黙を貫き、遊びにも加わらなかったことも理解できるでしょう。

 

ファンタジーにおける案内役の重要性

先述したように、絵本『もりのなか』は「ファンタジーの典型」です。すると、この物語では、男の子が空想をすることでファンタジーの世界に飛び込むのだと考えることができます。

 

そして、「お父さん」という存在は、実世界における子どもの帰る場所、居場所の大切さを表す象徴だとされることが多いです。

 

けれども、こうした解釈には一つ重要なポイントが欠けています。それは、ファンタジーの世界には「案内役」が必要だ、ということです。

 

例えば、英米児童文学の代表ともいえるファンタジーライオンと魔女』(ナルニア国ものがたり1)(C. S. Lewis, 1950, 瀬田貞二, 2019, 岩波書店)では、ルーシィが洋服ダンスに潜り込み、奥へ奥へと進んだ先で、異世界だと気付く前に「フォーン」という「ヤギとヒトとのいりまじった、野山の小さな神」と出会い、その世界の事情を知らされます。

 

また、もう一つの例として、『ハリー・ポッターと賢者の石』(J. K. Rowling, 1997,  松岡佑子, 1999)では、主人公ハリーが自らが魔法使いであると初めて知り、その世界に足を踏み入れるシーンで、ルビウス・ハグリッドという名のホグワーツ魔法魔術学校の森番が現れます。

 

これらのフォーンやルビウス・ハグリッドらは、主人公たちがファンタジーという異世界に入り込み、また、読者をファンタジーの世界に招き入れるために、「案内役」として重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

 

もちろん、『もりのなか』は先ほど挙げた2作品と違い、短い絵本であるため、状況説明やファンタジーの世界について手取り足取り教えてくれるような案内役は必要ないかもしれません。しかし、やはり、現実から空想というファンタジーの世界に入り込むときには何らかの「案内役」が必要だと思われます。

 

なぜなら、「案内役」がいることで、主人公も読者も、ファンタジーという見ず知らずの世界を旅することができるようになるからです。

 

ここでは、物言わぬウサギが、その「案内役」の役目を担っているのだと考えることができます。ウサギは、男の子を、現実の世界から空想というファンタジーの世界へと連れだし、そうすることで、男の子に自分自身を重ね合わせている読者の子どもたちを、異世界へと導いていくのです。

 

まとめ

絵本『もりのなか』において、ウサギは行列に加わっても何も言わず、また遊びには加わろうとすらしません。こうしたことと、ウサギだけが身近な動物であることを考慮すると、ウサギは男の子の空想の産物ではなく、実際に森の中に住んでいて、男の子と出会ったのだと考えられます。

 

一人で森を散歩していた男の子に、現実の森の世界を飛び出して、空想を始めさせる「案内役」として、ウサギは他の数々のファンタジー作品と同様に、主人公にとっても読者にとっても大きな役割を果たしています。

 

こうしたことから、作者のマリー・ホール・エッツは、空想の世界から現実の世界に帰る手助けをする存在として、お父さんを登場させただけでなく、現実の世界から空想を拡げる手助けをする存在である「案内役」として身近な小動物であるウサギを選んだのだと考えることができるでしょう。

 

そこには、エッツの、子どもたちに向けた次のような思惑が垣間見えているのかもしれません。

身近なことをきっかけにして、自由な空想を広げ、その作り上げた空想の世界を存分に楽しんでほしい。どんなことでも、「案内役」として、きっと子どもたちを空想の世界へと導いてくれるはずだから。

 

 

さて、この記事で考察した絵本『もりのなか』ですが、実は先日、私が毎日1冊おすすめの児童書を紹介している【#きのうろ書房】というタグで紹介した絵本です。

 

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